f=1/(2×π√(L×C))の計算式で示される共振回路におけるLとCの組み合わせは無数に存在します。
例えば7MHzに共振させるには1uFのコンデンサーに0.52nH(ナノヘンリー)のコイルを組み合わせてもOK、 1mHのコイルに0.52pFの
Cを組み合わせても共振します。このような極端な例は別として、一般的にFCZコイルなどを使用する場合はメーカーの指定通り
のLとCを使用するのが普通です。しかし3.5MHzに共振させるのにFCZ3.5を使わなければいけない理由は何処にもありません。
FCZ-7でもFCZ-14でもなんら問題にはなりません。
LとCの組み合わせを考える場合、問題になるのはその共振回路のQです。コイルやコンデンサーの等価直列抵抗もQに関係
しますが、こと共振回路においてはCとLの比率が大いにQに関係してきます。
左側の上下は455KHzに共振させた直列共振回路の特性と回路図、右側の上下が並列共振回路のものです。
少々見づらいですが両者とも緑色の曲線が220uHと556.15pの組み合わせ、 ピンク色は値を変えて直列共振においてはハイL、
ローC(2.2mHと55.61pF)にしてQを高くして急峻な特性を得たグラフ。並列共振においてはローL、ハイC(22uHと5600pF)
にしてQを高くして同じく急峻な特性を得たものです。 このように直列共振回路ではQは√(L/C)に比例し、
並列共振回路ではQは√(C/L)に比例します。従ってQを高くするには
直列共振回路ではハイLとし、並列共振回路ではハイCとします。直列と並列では結果はまったく逆となるので、使用する
目的によってインダクタンスを大きくとるかキャパシタンスを大きくとるかを決定します。
よく使用する並列共振回路においてはコンデンサーの値を大きくしコイルの値を小さくするとQの高い、選択度が鋭い
共振回路が 得られます。3.5MHzのBPFを作るとき、直列共振回路だとFCZ3.5を使うのは理にかなっていますが、並列共振
ではむしろFCZ21やFCZ28などを使う方が正しい選択でしょう。
ただし、前述にもあるように等価直列抵抗(ESR)の影響で無限にQを高めることはできません。
コイルやコンデンサーにはこの抵抗成分が付随する為、LとCの組み合わせに加えてこのR成分がQに影響します。
ちなみに、Qの定義としては Q=ω0/(ω2-ω1)(ω0=共振周波数、ω1、ω2=ω0の1/√2に減衰する周波数)です。
平たく言えば Q=(共振周波数) / ( 約70%の減衰が得られるバンド幅)、と言うことになります。例えば7MHzで70%減衰する
周波数が8.5Mhzと5.5MHzならバンド幅は3MHzとなり Q=7/3=2.33、同じように計算してバンド幅が500KHzに狭くなれば
Q=7/0.5=14となります。
別のページにあるAD603を使用した455KHzのAGCアンプの直列共振回路をオリジナルの220uH、556p(470p+120pTC)から写真
矢印のように、750uHと163pF(100p+120pTC)の組み合わせに変更しました。フィルターとしての特性はよりシャープになっています。
他の項目でもよく使用した74HC390と74HC4017の分周回路をまとめてみました。 4017は2分の1から10分の1まで、半端な数値
のものまで分周可能です。 両者とも30MHzくらいまでは使用可能で、GPSを利用した標準信号発生器では74HC4017を使用し、
30MHzを1/3分周して10MHzを取り出しています。接続は下の回路通りにおこなってください。入力は1V程度にも対応できるように
10KΩを2個シリーズにして2.5Vを入力端子に加え、そこにCを介して入力波形を入れます。こうすることによってCMOSレベル
(TTLレベル)に達しない入力信号にも対応できます。
1番目だけにその入力回路を記述していますが INPUT となっている所はすべておなじです。74HC390は同じ回路が2個入り
ですからひとつのICで最大1/100の分周ができます。まず 74HC390 です。
74HC4017は奇数の分周もできます。INPUT は[1/2]分周のやり方と同じ方法でしてください。ただし 0-5V の CMOSレベルの
入力であればそのまま結線してもOKです。複数の OUT がある接続もありますがどの OUT 端子を使っても同じことです。
74HC4017の9種類の分周回路を示しました。
このほかに74HC90というICも4017と同じように使えますが電源ピンの位置が他のTTLと全く異なり、かなり使いにくいICです。
プログラマブル分周器としてTC9122 (BCD programmable counter) や TC9198 (Binary & BCD) があります。TC9122は
15MHz程度まで最大3999分周できます。TC9198は30MHzくらいまでバイナリーでやれば最大65535分周まで出来ます。
直接30MHzを10KHzに3000分周したい場合など、1個のICで出来るので重宝しますが、出力が「ひげ状」のパルスとなり DUTY
比が問題になる場面では使えません。
また直接目的周波数に分周してしまうので、途中の10MHzや1MHzを取り出して利用することはできません。
普段3.6MHz帯でQSOしているJA4GII氏のホームページをあるきっかけで知り、彼がOPA2677を利用したHF帯送信機の
設計をしていることを知りました。 氏の了解を得ましたので元回路を紹介し、また私なりに多少変更した回路を紹介し、
合わせてそれらのデータも提示したいと思います。
下の回路図面、パーツ番号に関しては コピペを繰り返してるのでC1が何個もあったりします。その辺は割り引いてご覧ください。
このOPA2677オペアンプの - (マイナス) 端子から信号を入力するタイプの回路の振幅特性と周波数特性のシミレーションを
下に示します。
【お断り】simulation software にはリニアーテクノロジー社の「LTSpice」を使用しましたが他者の製品を含めて全てのデバイス
のデータが用意されている訳ではありません。今回のテストでは「OPA2677:250MHz 最大出力電流 500mA」を使用
できなかったため、代わりに比較的似たような高周波用
「リニアーテクノロジー社の「LT1396:400MHz 最大出力電流 80mA」 で代用しています。
このICでは出力電流が小さく 50Ω負荷に数百mW を出力できないためやむなく負荷を1KΩに変更しています。ただし、
おおむね高周波的性能の結果は同じでと考えます。
トランジェント解析では、黄色の3.5MHz、0.1V入力 (R1のHotEnd) に対して出力の3V (R8のHotEnd) は緑で示され、約30倍
(約29.5dB) の電圧利得があります。当然電力利得も約 29.5dBです。1mWを入力すればほぼ 1Wの出力が得られます。
(シミュレータで仮に、OPA2677のデータが使え、50Ω負荷に3Vの電位を与えられば出力は180mWとなります。)
なお、実際にはオペアンプの電源の12Vを1/2にして、6Vを基準として信号をスイングさせる片電源使用で使いますが、
シミュレーション上は簡便に + - 6Vの両電源でテストしています。(電気回路的には同じことです)
次にこの - (マイナス)入力回路の周波数特性を示します。回路周辺のstray capacity、フェライトビーズへのコイルの巻き方、
その結合度その他オペアンプの内部構造の問題など様々な影響で現実とは多少のずれがあるかも知れません。 大まかには
その傾向は分かるとおもいます。3MHz辺りで30dBのゲインがあることが解りますが10MHzにかけて周波数が高くなるにつけて
多少ゲインの減少が見られます。
以外と気付かれないことが多いですが、- (マイナス)入力から信号を入れると+ (プラス)入力点は、通過信号に対しては
低周波的・高周波的にも +入力点をGND電位に固定できます。言い換えれば virtual short (imaginary short とも言う)
にある
-入力点も合わせてアース電位にできる事を意味しています。信号を送るべき次段にGND電位が存在するということは前段から
見れば信号伝達が(特に高周波領域では)安定することを意味します。これがオペアンプに−入力から信号を入れるメリットです。
逆にオペアンプの +入力に信号を入力する場合は そのオペアンプの -入力点を低周波的にも高周波的にもGND電位には
できません。後述する高周波特性の違いも含めて +IN -IN 入力、それぞれに一長一短があるので状況により選択すべきでしょう。
以下は私のオリジナル回路です。+(プラス)入力から入力信号を加えます。回路の説明は図中にありますのでご参照ください。
以下はプラス入力のOPA2677の振幅特性です。プラス入力なので多少ゲインが高くなっていますが、マイナス入力のものと大差
ありませんん。オペアンプの増幅率は - 入力では 「Rf/Rin」、これに対し + 入力で構成する場合の増幅率は「1+Rf/Rin」 に
なることは基本的なことなので理解いただけると思います。(-入力間に入っている、500ΩVRとシリーズ接続の50Ωは
SDR-3出力段に流用して現在は300Ωになっています。)
プラス入力の周波数特性を示します。10MHz近くまでかなり高域まで伸びています。14MHz辺りまでの高周波領域まで伸ばす
必要があればこの増幅構成の方が適しています。一般的にオペアンプの周波数特性を伸ばしたいときは + IN に入力する方
が有利です。- IN に入力する場合は入力抵抗とオペアンプ -IN 入力のストレイキャパシティによりローパスフィルターを形成
するからです。+IN に入力する場合はローパスフィルターを構成する要素はありません。
私のオリジナル回路をもう一つ紹介します。入力のトランスを省いて同じ性能を得ています。片電源で設計していますので
OPA2677 の+入力を電源電圧の1/2にしなければいけないので複雑に見えますが、1段下の +- 電源を使用した回路はとても
シンプルであることが分かるとおもいます。二つのVRが入っているのは増幅率を変化させるために入れています。
増幅率を変化させる必要がなければVRは要りません。この入力側のコイルを省いた回路がなぜ二つの前例と同じ動作が出来るか?
さらに下のR1=200 R3=1.8K としたシミュレーション回路で説明します。
振幅特性は前例2種となんら変わりません。シミュレーション回路では簡単にするため +-6V 電源を使用していますが、上の
片電源と性能は同じことです。+ - 5V電源で組み上げる場合はこの + - 電源の方がより簡単になります。
【回路説明】前提として上側のU1の+入力はGNDにアースされています。従って下側非反転アンプU2の電圧増幅率は
1+R5/R3 となります。計算すると 1+1800/200=10(倍)となります。どうして200Ωの端がアースになっているかは virtual short
(仮想的短絡)としてU1の + 入力がアースされているからです。逆に反転アンプである上側U1はU2の+入力から virtual short
で200Ωを介してU1に入力され、その電圧増幅率は2000/200=10(倍)となり、反転・非反転のアンプ出力は、前例のように
あたかも180度位相をずらして2つのオペアンプに入力したごとくに動作します。大切なことは上下二つのオペアンプの
増幅率が同じになるように feedback 抵抗を設定することで、最初の回路図面にあった二つのVRは、まず -入力どうしをつなぐ
VR1で必要な増幅率を概ね決めて、次にそれぞれのオペアンプの出力の振幅が同じレベルになるようにVR2を合わせこみます。
出力側にある10Ωは特定の周波数でピークが生じたり、発振を起こしたりすることの予防のため、C1は二つのオペアンプの出力
に直流的電位差が出来た場合に片側から他方に流れ込まないようにする目的です。既述の2例は出力の両方にCを入れて
いましたが1つで十分です。
VRではなく、入手可能な抵抗で両オペアンプの増幅率が合う表を作りました。参考にしてください。
例えば20dBの10倍でよければR1に200Ω、R2に2KΩ、R3に1.8KΩを使えばVRは必要なくなります。
この回路の周波数特性です。他の回路を比べても遜色ないと思います。シミュレーション回路では R4=2K R3=200 R5=1.8Kを
つかっているのでこの回路の増幅率は10倍です。出力はコイルの巻き数が2倍になっていますので2^2=4倍で、トータル40倍
20*Log(40)=32dB と理論上はなりますがコイルでの減衰その他の要因で下図のように30dB前後になっています。
最後にOPA2677のIMD特性を示します。トライアル的に12V片電源で、200mW出力時の2トーン波形です。マイナス入力、
プラス入力、入力コイルなしの3種の回路とも、同じ出力を得る条件では IMD特性に差は全くありませんでした。
実際の実験ボードは下にあるような蛇の目基板に作っています。(ボロ電源からシールドなしのすべて仮の実験姿なので)
測定条件が悪く、ノイズに隠れて見にくいですが -70〜-75dB程度の3次 IMDはほぼ確保できそうです。
入力に用いた2トーン発振器は2つのDDSから作り出した自作のRFツートーン発振器です。
12Vの電源を連続的に供給すればもう少し大きなパワーでも良好なデータが得られるかも知れませんが、12V駆動時での発熱を
考えると、ヒートシンク対策を十分設置しておかないと連続送信では少し"しんどい"でしょう。
(私はやっていませんが熱破損の可能性もありや??)
現実の実験に組み立てた3つのOPA2677の回路です。実験をしながらの回路開発にはユニバーサル基板は必須のアイテムです。
(秋月電子さまに感謝!(笑い))。
以上いろいろ述べましたがプラス入力方式でやる利点は
1)500ΩボリュームでOPA26677の増幅率を簡単に変更できる。
(マイナス入力方式ではマイナス側の2つのRを同値に変える必要あり。)
2)周波数特性が高域まで伸び、7MHz、10MHZ 14MHz 辺りまでQRVされる局長には有利かと。
入力トランスレス方式の利点は適当なコアーが見つからない場合や回路をさらにシンプルに仕上げたいときなど、また簡単な
BTL回路として設計したい場合などに使用価値があるかと思います。
最後に再度誤解のないように言っておきますが、これらはBTL回路 (Balanced Transformer Less) 回路と言って
プッシュプル回路ではありません。OPA2677を1つだけ使う single ended amp に比べて出力電圧は2倍になるので電力は
4倍になります。個別的には、前2つの回路は180度の逆位相で 入力して信号を出力側まで位相を変えることなく、180度位相差
のままで合成して出力ポイントでここの電圧を2倍にしています。
3つ目は同位相の入力信号を反転、非反転アンプを通して180度の位相差を作り、出力で合成し2倍にする方法です。
さらにトライファイラーのコイルの巻き数が 1:2 になっていますので、結果コイルの出力である2次側には2の2乗で4倍の電圧
が生じます。ただし出力コイルをトライファイラー巻にする必然性はなく電力伝送に変化はありませんから電圧が低くてよければ1:1
のバイファイラー巻でもその要件(パワー伝達)は達成できます。仮にトライファイラー巻で50Ω負荷に200mW出力なら23dBmなので、
バイファイラー巻で電圧が低くなっても取り出せる電流が大きくなり、電力では同じく23dBmが出力です。
OPA2677はそれほど高価な石ではないし、かなりの性能を有するのでヤンガーステージの電力増幅に一度試してみてください。
(JA3GSE TSUJI :30/Mar/2015)
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